ユネスコ無形文化遺産
─クヴェヴリについて
クヴェヴリ(qvevri)とは?
ワインの醸造・熟成・保存に使用する素焼きした粘土製の容器で、卵型に近い形で底が尖っています。クヴェヴリに使用する最適な粘土が採掘できる場所は限られる為、職人達はクヴェヴリ制作の技術だけでなく場所に関する知識も代々受け継ぎます。クヴェヴリは地中に埋められる事でワインの熟成や保存に最適な低い温度を保ち、卵型の形状は果汁と果皮や果梗等の循環を促します。
*クヴェヴリは、イメレティ地方ではチュリ(Churi)と呼ばれます。
クヴェヴリの歴史
多くの遺跡で新石器時代のクヴェヴリや土器が発掘されていますが、ジョージア国立博物館に現在展示されている土器は紀元前6,000年頃のものと推測され、世界最古のワイン容器とされています。
クヴェヴリの形状は進化を続け、現在のように底が尖った形になったのは紀元前3世紀頃、クヴェヴリを地中に埋めるようになってからで、当初はクヴェヴリの肩のあたりまで埋められていましたが、紀元後4世紀頃迄には首の部分まで埋められるようになりました。
クヴェヴリの製法
クヴェヴリは職人によって、すべて手作業で造られます。1,000ℓのクヴェヴリで約6週間かかりますが、熟練の職人は同時に数個のクヴェヴリを製作していきます。簡単な製作順序は以下のようになります。
- 棒状にした粘土を下(底の方)から上に段々に積み重ね、表面を整えながら一段ごとに乾燥させて、クヴェヴリの壁面を形づくっていきます。
- 出来上がったクヴェヴリは3~4週間置いてから、最長で7日程かけ約1,000~1,300度の窯で焼かれます。
- 窯を3日かけ冷やし、窯からクヴェヴリを取り出します。
- 取り出されたクヴェヴリはきれいに掃除され、大抵は内部壁面を蜜蝋でコーティングされます。
- クヴェヴリの外側は伝統的には石灰をベースにしたモルタルでコーティングしますが、セメントで行う場合もあります。
- クヴェヴリには色々な大きさがありますが、通常は100~3,500ℓで大きさによって呼び方が異なります。小型のものは発酵を行う際に、特に大型のものは保存する際にも使用されます。
クヴェヴリ造りで有名な村
グリア地方のアツァナ(Atsana)、イメレティ地方のマカトゥバニ(Mkatubani)、シュロシャ(Shrosha)、トケムロヴァナ(Tqemlovana)、チヒロウラ(Chkhiroula)、カヘティ地方のヴァルディスバニ(Vardisubani)などがあります。
クヴェヴリの清掃
クヴェヴリ・ワインの質はクヴェヴリ清掃の仕上がりからも影響を受ける為、どの村にもクヴェヴリの掃除屋がいます。毎年ワイン造りの前に専用の道具で入念に洗わなければならず、底に溜まった沈殿物等を取り除き、きれいにした後、クヴェヴリの中で硫黄を燃やし燻蒸殺菌します。
ワインメイキング
クヴェヴリでの醸造
クヴェヴリを用いたワイン造りは、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。
クヴェヴリでの伝統式醸造方法は地方によって多少異なりますが、伝統的な流れとしては、サツナヘリ(Satsnakheli)と呼ばれる木製の槽の中で足を使ってブドウを潰した後、果汁と共にチャチャ(Chacha)と呼ばれるブドウを搾汁した後に残る搾りかす(果皮、果梗、種等)もクヴェヴリに入れて発酵させます。発酵は天然酵母だけで行われ、発酵後終了後はクヴェヴリを密封し、熟成させるという手法を取ります。
白ブドウ、黒ブドウのどちらもクヴェヴリで醸造する事ができますが、手順はほぼ同じであり、浸漬期間等に多少の違いがあります。
クヴェヴリでの伝統式醸造はカヘティ地方の製法が歴史的に最も古く、他の地方より浸漬が長くなるのが特徴です。
カヘティ式醸造法
ブドウを房ごとサツナヘリに入れ、種をつぶさないよう足で踏み、果汁を地中に埋められたクヴェヴリに入れます。サツナヘリに残ったチャチャもクヴェヴリに入れ、クヴェヴリの80~85%位まで満たします。
アルコール発酵の期間は品種やヴィンテージによりますが、約20~40日で完了します。発酵は自然に任せ、添加物等は使用せず天然酵母だけで行い、温度調節も自然に任せます。発酵中は浮いてくる果帽を棒で突いて沈める作業(パンチング・ダウン)を日に何度か行います。
アルコール発酵が終わり、チャチャがクヴェヴリの底に沈んだら、石やガラス製の蓋で閉じます。
マロラクティック発酵が終わったら、蓋を石灰粘土や土で覆って密封します。
翌年春(3月下旬~4月上旬)まで、ワインをチャチャと一緒に熟成します。
春になったらクヴェヴリを開封しチャチャを取り除いた後、ワインを別のクヴェヴリに移し、短期間更に熟成するか、そのまま瓶詰めします。発酵から熟成までの浸漬期間は5~6カ月ですが、赤ワインの方が白ワインより短く、通常1カ月でチャチャを取り除きます。
ワイン醸造所兼ワインセラー「マラニ」
ジョージア語でマラニ(Marani)と呼ばれるワインを造り保管する場所は、古くから家庭の最も神聖な場所であり、優れたワインを造る家庭は社会的に尊敬され、家庭でワインを造る際には必ずクヴェヴリが使われてきました。
マラニは様々な場所に造られており、家の1階や別棟、小屋、教会、洞窟の中、屋根のない屋外等、様々なパターンがあります。一方、クヴェヴリは必ず床下や地中に埋められて配置されています。
クヴェヴリ醸造によるワイン・スタイル
白ワイン
クヴェヴリで醸造された白ワインは、ジョージアでは「アンバー・ワイン」と呼ばれ、琥珀色の色調となります(世界のワインシーンでは「オレンジ・ワイン」とも称されています)。アプリコットやオレンジ・ピール、ナッツの風味を伴い、タンニンの質感が感じられる辛口に仕上がります。供出温度は14~16℃が一般的です。
使用される主な品種:ルカツティリ、ムツヴァネ・カフリ、キシ、ツォリコウリ、ツィツカ、クラフナ等
赤ワイン
クヴェヴリで醸造された赤ワインは滋味深さを感じるテクスチャーを見せ、わずかに肉厚さも感じさせます。
使用される主な品種:サペラヴィ、タグクヴェリ、アレクサンドロウリ、オツカヌリ・サペレ等